Tosastudy

解放都市・高知



 今日はいつになく晴天である。この季節としては珍しく、快晴とも言うべき天気だ。町には南に口を開いた大きな内海があり、そこから4本の川が流れている。市街は主にこの内海・浦戸湾よりも西にあり、殆どはそこで事が足りる。市街の中心には東西と南北に貫く電車通りの交差点がある。ここを南に下ると、我が学校がある。朝8時。北の窓を眺めていると、丁度その交差点辺りか。何やら光の柱が立ち上がっている。すると次の瞬間、そこから同心円状に3つの円が広がり、円に包まれた地域全体が光り始めた。この不思議な現象を何としても記録せねば。そう思って友人が偶然持っていたカメラで撮影を始める。しかし数分後、別の友人・Aが何やらひどく怯えた顔でやって来た。
「危なかった…ここも安全か分からん…」
 何があった?と訊くと、交差点にAが居た時、紫色のいかにも危なそうな煙が電灯から漏れ出し、その煙を吸った人が続々と倒れた。介抱していると苦しみ始め、息もしなくなった。AEDを取りに行き、戻るとまるでゾンビ映画のようになっていたという。逃げ遅れた事に気付いた彼は自転車を取って急いで学校まで逃れ、同じように逃げてきた人々で学校の扉という扉を封鎖した。幸い、向こう側の状況をこの校舎から見る事が出来る。すると、あの光っている地域からはゾンビが出てきていない。近寄らなければ大丈夫なのだろうか。南から来た人は状況も知らぬまま校舎外に放置されている。取り敢えず封鎖を解除したらどうか、という事で封鎖を一部解除した時、丁度この光が無くなった。そしてゾンビが市街の南北を隔てる鏡川に架かる橋を渡り始め、興味本位で近寄っていた野次馬が血塗れになっていった。急いで封鎖するよう階段を下りて知らせに行くと、それを知った皆はパニックに陥った。しかしここを封鎖しないと。結局全て封鎖する事は叶わず、階段を封鎖するに留まった。こうして我々は1階を喪失した。
 外の状況もあまり分からぬまま、遂にゾンビのようなものは学校周辺にも迫ってきた。誰が生きていてももう開けるな、と言ったのにも関わらず、封じた防火扉を開けて次々と人が入ってくる。このままではあっという間に終わってしまう。生存者は3階へ避難させ、2階を緩衝地帯とする事にし、避難誘導を開始した。最初は何故お前がいきなり仕切り始める、等という声が聞こえたが、大勢(たいせい)が従ったからには従うらしい。こういう恐怖が独裁政治を生むのだろうか、とも思う程に従順である。こうして2階から戦略的撤退を成功させ、上ってくる者については、取ってきた瞬間接着剤を使い切るほどに外側の開口部のノブに塗る事で内側からしか開けられないようにした。非情ながら見捨てたのだった。こうするしかなかった。防火扉を閉めてしまったので、外の様子が直接は分からない。ただ3階から眺める限りは、校舎は包囲されていると分かる。これでは裏山に逃れる事も出来なさそうだ。生存者のうち各クラスから代表者を集め、最上階の1部屋を使って状況確認をする事にした。本来ならまとめ役といえば生徒会あたりだろうが、早くに登校する癖のある副会長くらいしか生き残っていなかった。そのB君を臨時会長にまつり立てて、情報交換を行った。階段を塞いだ事については非難轟々であったが、それでも皆を3階に移していたので、直接助からなかった友人を目にした者は居なかっただけあって、まだマシな方だったと思う。現状は、3階以上に避難、2階を緩衝地帯として籠城状態だ。食糧は災害時備蓄を使うとして、生存生徒数は273人。かなり助かった方だろう。教員は一体、となるだろう。教員らは総出で1階に防衛線を築こうとしたが、自分たちが許可を得て、2階の防火扉を1つ残して全て封鎖し終わった頃だった。念のために開けている最後の扉を、いつでも塞げるように待機していると、目の前で防衛線は崩壊し、仕方なく塞ぐ時、逃げてきた教員らを取り残したのも目撃した。しかし数m先には見たこともない程に血塗れの見知らぬ人々、いや怪物共が居て、かろうじて逃げ延びた教員らとともに助かるかもしれないのを選ぶか、見捨てて確実に助かるかを考えた時、Aと私の間では後者が勝った。無言のうちに同意し、問答無用で封鎖した。事前にドアノブを塞いで、あとは閉めるだけにしておいて良かったと、この時ばかりは思った。ありのままを話せば当然また非難されるだろうと思い、咄嗟に私は教員らが「自分達は良いからお前らが助かれ」と言った事にした。自らの命が掛かっている時、わざわざそんな事を言う人は居ないだろう。それが自分の親族でも無い限りは。そう思うものの、中々に良く出来た嘘だったのか、それとも自分達が見捨てた事を正当化するためにそう信じたかったのか、どちらにせよ信じてくれた。疑いの欠片も無かった。総勢273人での籠城戦に足る食糧は流石に無いだろう。そう思って食糧配給は1日1回の軽食とし、全食糧を生徒会室に運び込んだ。生徒会は副会長を除き全滅した模様なので、Aや私などの数人は臨時生徒会にスカウトされた。臨時生徒会は各学年と連携を取り、1日1回、夕方5時に代表者で集まって、会議を開く事とした。そしてそれ以外の時間は只管、耐久戦だ。食糧配給は会議後の6時。生存確認のための点呼は朝夜2回。男子生徒は防火扉前で交代制の見張り番をし、有事にはすぐに避難できるように貴重品は全て屋上に置くが、平常時は屋上を立入禁止とした。基本的に各教室待機となったが、教室が無くなった者には空き教室などを融通した。というのも防火扉は各階と階段を封鎖するもののため、常時塞いでしまえば各階は孤立する。そこで階段に見張り番を置いたは良いが、些細な会話が怪物共を呼ぶかもしれない。興味本位で2階よりも下に下りる者が居るかもしれない。奴等が上ってきた時に階段に防衛線が無い。これはこれで心配なので、開閉を行う階段を1つに限定し、各踊り場に砦を築き、そこと防火扉に見張り番を置いた。マニュアルは手書きのものを印刷機で回した。実は、幸い電気は通っているのだ。これが発電所や変電所は無事、という保証たりえるのだから。
 夜。もう何日経ったのだろうか。恐らくカレンダーに毎日記している者や電波時計を持つ者にしか分からないだろう。私の時計は安物のアナログ時計で、日付までは分からない。ただ1つ分かる事は、市街の夜闇に浮かぶ光は最初の日より明らかに減っており、火の手が上がって数日間燃え続けた後、黒く沈んでしまった所もあるという事。つまり他にも生存者が居たが、何らかの理由で全滅したか、或いは隠れているかしているという事だ。最初の頃は図書館や幾つかの学校も光っていたのだが、今では山間部くらいのものだ。逆に言えば、まだ山間部は無事なのだろうか。そんな事を考えながら、眠る毎日が続いた。しかし食糧もいつか限界が来ると思っていた。水については水道が生きているので全く不便は無いのだが、あと600食、つまり2日分くらいしか無いのである。よく昔の籠城戦では木の皮や雑草を食べたとあるが、ここにはコンクリートしかない。どうすべきか案を募ったのはもう数日も前だが、突撃案くらいしか根本的解決にはならない。しかしただ突撃しては、他の闇に沈んだ生存者と同じだ。恐らくは食糧問題でその場を去ったのだろう。まずは外の様子を、といって久々に昼間にバルコニーに出てみると、ゾンビのような怪物たちが腐っているのだ。もう動かないだろう、と思って試しに3階から椅子を投げてみたが、何も反応がない。これは好機だ。ゾンビは時間が経つと腐る。我々は持久戦に勝利したのだ。しかし、では何故光が消えた所は「復活しない」のか。10日前から夜景をメモ帳に小さくスケッチしているが、光の数は半分ほどに減っている。電気も水道も、何故か無事なのに、だ。普通ならあり得ない。電気と水道と食糧があれば、どうにかなる筈だ。ならば普通なら、拠点を中心に動くのではないか?しかし光が消えたという事は拠点を放棄した証拠だ。そう推論を述べると、確かに感心はされたものの、外に出ない事には分からないという意見が大半を占めた。奴等が腐敗したのだ。何ならもう自由ではないか。そう述べる者も居た。しかし何かが気がかりなのだ。数日前まで残っていた、一番近い発光源であった家とは、夜10時頃に光の点滅で互いに生存確認をしていた。しかし突然それが無くなったのだ。それどころかその家自体が暗転し、夜闇に沈んでしまったのだった。何があったかは分からないが、この学校に電気が来ているという事は、恐らく停電ではない筈だ。しかし食糧問題は深刻だ。そこで外出部隊を結成した。2部隊結成し、1つは少し南にある無人と期待されるスーパーから食糧になりそうなものをなるべく強奪する。しかし途中で何かあった場合は全てを放棄して急いで帰還し、状況を伝える。それが出来そうにない場合であっても、部隊の書記役が何かを残しておく。命の価値とはこういうものだ。活かせるだけ活かし、もし「生かせない」としても最大限に活かす。そしてもう1つの部隊は、単に興味本位だ。数日前に夜闇に沈んだ件(くだん)の家の周辺に向かう。可能ならそこまで行く。勿論この部隊を率いるのは私だが、食糧部隊についてはAが率いる事となった。あの恐怖を知る者として臨時会長に懇願されたのだった。
 食糧枯渇まであと1日。朝の点呼の後、昼10時。目視での安全確認が9時から行われていたが、何もなかったのでそのまま出陣。出来れば残された車から発炎筒を盗ってきてほしいとも頼まれた。しかし車を不用意に破壊すれば、警報音が鳴って何が起こるか分からない。そこで今回の作戦では、有事の際には周辺の自動車を破壊して警報音を鳴らす事とした。しかし実際、これで何が起こるか分からないため、やって良いのは学校から500m以上離れた所、とした。階下に下りてみると、2階にもやはり奴等が来ていたのか、血の跡が残っている。覚悟は良いか、そう確認しつつ1階へ降りる。すると腐った死体が大量にある。あの日死んだのだろうか、白骨化がかなり進んだものもある。一方で割と新しい死体もある。路上にあったそれはガムテープで露出部を覆っている事や、他のものよりもまだ違う様子な事からも、恐らくあの日の遺体ではないのだろう。しかしそれでさえも大雨で洗い流されたか、外には焼けるように暑い太陽と野生動物、そして白骨死体があるだけだ。何人かはこれを見て気持ち悪くなったが、最早後戻りできないのでそのまま進む。あの家周辺に着いたが、何もない。スケッチでは多分この辺だと思ったのだが、という辺りを歩いていると、一軒だけ異常な破壊を受けた家を見つけた。昼間はゾンビを刺激するかもしれないといって一度も外に出なかったから全く分からなかったが、明らかに異常である。瓦礫には爪跡のようなものがある、と思って見ていると、背後で悲鳴が聞こえた。犠牲は数人に済んだものの、皆恐怖で全く動けなかった。但しこれで良い事も分かった。恐怖で失神した臆病者が1人居たが、そいつには目もくれず逃げる者を追っていった。さては動きに反応するのでは。そう思って咄嗟にそれを叫んでダメ元で試させると、彼は死ななかった。あれは一体、と皆が思った。オカルト好きな奴がこう言った。
「あれは、きっとチュパカブラに違いない」
 しかし私は知っている。本来あれはプエルトリコの怪物(UMA)だ。実在性も殆ど疑わしい上に、在来種ではない。それに形が違う。チュパカブラの背中にもう2本、手が生えている。手4本に足2本という事で、暫定的にあれを六(ム)ッ手(デ)と名付け、帰路はそれに怯えながら辿った。食糧部隊は難なく帰ってきた。そして再びあの惨状を通り過ぎ、拠点たる校舎3階に戻る。興味本位の部隊であった私の部隊が数人減っている事に、最初に気付いたのはその死人の恋人であったCだった。Cは最初に襲われたBに片想いを寄せていたらしく、志願して部隊に入ったBに泣きついて行くなと止めていた人だというのはすぐに思い出した。Bらの死は確かに大きなものだった。273人が267人になった。数字で見ればそれだけの事だが、この事が定例の集まりで報告されると、新たな怪物への恐怖で怯える生活が始まった。食糧部隊は10人全員がそれぞれ持てるだけの缶詰を、最早料金を払う相手のいないレジ袋(大)に入れて持ってきたため、1日1人1個の配給として、最低3日は保つ計算だ。しかしスーパーの様子も変だったという。誰かが入ったような跡があり、飲料棚には何も残っていなかったらしい。他にも生存者が居るのか。そう思えば、夜闇に浮かぶ唯一の灯台として立て籠もっていれば、いずれ気付く人は居るだろう。もしかすると既に気付いているかもしれない。但しその気付いた相手が何をしてくるかは未知である。それに新たな怪物・ムツデが光に反応しないという保証は無い。そこで灯火管制を行い、日没後の電気の使用は禁止する事とした。事情は全て話したので、何とか理解してもらえた。
 灯火管制1日目。食糧はあと3日保つ、と報告した。最早臨時会長よりも私の方が報告していて、臨時会長は議長くらいの役職になっている。そして外出者は分かる限りの情報を黒板に書き記し、共有する情報をなるべく多くした。今この町には、ゾンビよりも恐ろしいものが沢山居るらしい。1つは新しい買い怪物。もう1つは謎の生存者。そうして定例会議の後の情報共有会を終え、午後10時。籠城2日目頃に風呂に入れないから、という事でティッシュなどを水に濡らして拭くようになったが、それももう足らなくなっているらしい。しかし何故電気や水道が無事なのだろうか。非常に助かるのではあるが、両方が生存しているのか、或いはこの犯人が維持しているのだろう。少なくともわざわざこの学校を含め市街全域に送電するとすれば、この2択だろう。一般人が占拠しているのなら全てを維持する必要性はない。ならば今一番の問題はムツデだ。為す術なく敗れたものの、逃げ延びる術は獲得した。しかしあの怪物(ムツデ)が侵入した時に備えて倒し方も知らねばならない。出所不明の怪物。せめて1体あれば、と科学部の連中が言ってくる。物理攻撃が効かないなら、という事で研究が進んでいた新兵器。当初はゾンビ対策だったが、ニトログリセリンの合成に成功し、無理矢理ではあるが紙粘土や紙に吸わせてみたのだ。実際の効力は不明だが、あまり大きな音を立てる訳にもいかず、ダメ元の対処法で、との事だった。それに慎重な扱いが必要になるため、合成道具だけ持って行き、現地で生産する事が考えられた。結局は運搬が危険という事で現地合成となり、材料とレシピだけ持っていく事になった。しかしかなりの材料量。グリセリンに、濃硝酸に、濃硫酸。持っているだけで既に生きた心地がしない。専(もっぱ)ら迎撃用途で用いられる事が想定された。場所は一度行った家。そこに材料を持って行き、ムツデが来たらニトログリセリンにする。準備が出来、ムツデを誘(おび)き出すために数人が散って大声で狂い叫ぶ。やはり最前線は生きた心地がしない。すると、誘導に成功したのか、こちらにやって来る。瓦礫に隠れて合成し、道路に撒いた。後はここに刺激を与えるだけだ。急いで逃げる。事前に付近の木造住宅にも染み込ませておいたが、効果の程は分からない。ムツデが迫ってくる。30m、25m、20m。撒き終わった私達が横道に逸れて全力で走る。そしてオトリ役が裏山に向かって走る。15m、10m。5m。水溜りを踏みつけたムツデは爆発に巻き込まれ、派手に砕け散った。幸いこちらに大怪我は無かったが、数人が怪我した。そしてムツデの残骸を回収する。上手くいって良かった。帰還すると、早速残骸の解剖が行われた。同時並行で1階の清掃が行われた。既にその惨状を見ている有志で、これから階下に下りる者が同じ思いをせずに済むように、との事だ。まあ外に出れば同じようなものだが、何せ雨風による損壊が少ない分、白骨化しにくいのだ。その結果として見るも無残な姿になっている。それをモップや箒で1ヶ所に集める作業だ。多くの者にとって師だったり、友人だったりする者の死骸を見るのは辛い。しかしそれを埋葬せねば何も始まらない。そう思いながらも、全て庭に埋葬し、1階の浄化が取り敢えず完了した。水があるお蔭でかなり早く進んだが、壁に散った血飛沫(ちしぶき)などは中々落ちない。ムツデの残骸からは石が取り出された。紅色の宝石(ルビー)のようなものだったが、消化器ではなく首の所から取れたらしい。何かの縁だろう、と思ってそれも庭に埋葬した。暫くして日が沈むと、取り敢えず一段落ついたよう感じがする。友人に寺の息子が居たので、般若心経を唱えてもらい、簡易葬を行った。真言宗様式だったが、他宗派や他宗教でも哀意が伝われば問題ないだろう。木魚や焼香はおろか金一丁ですら楽器で代用する有様であったが、それでも葬式にはなった筈だ。
 一方これを見つつ、黒い服装に身を包んだ男がこう呟く。「あのキメライズド・チュパカブラを倒すとは…」
 食糧調達の日。迎撃用にニトログリセリンセットを持たせ、食糧部隊が出撃する。使い方が分からないと話にならないので、経験者である我々のうち私を含め何人かが同伴した。最も近いスーパーにはもう既に殆どのものが無い。恐らく誰かが取っていったのだろう。だから今回は更に南のスーパーに向かう。徒歩では少し遠いので、自転車で向かう。銀輪部隊だ。銀輪化による機動力向上はかなりのもので、業務用スーパーから多くのものを持ち出せた。幸か不幸か、誰も居なかった。この町にはもう殆ど生存者は居ないのだろうか。それともどこかに逃れているのだろうか。帰路、またムツデと出会った。どうやらこいつは1体だけでなく複数居るらしい。銀輪の機動力なら逃げ切れるのだが、サンプルが欲しいと言われている以上、死なない程度に戦う。先に食糧部隊の一部に全ての食糧を任せて迂回帰還させ、残りの5人で倒す。流石に2体以上は相手にしたくないので、監視役を2人。そして準備役は私とAがやり、オトリ役が走り去る。ムツデは人並みに足が速い。つまり走るのをやめれば、もしくは近道をされれば殺(や)られる。オトリ役は準備地点が準備し終わるまで、そこを通らずに追われ続ける必要がある。準備が終わってオトリ役に合図を送る。同じようにはいかないかもしれないので、すぐに自転車に乗って退避し、逃走準備をする。轟音が響く。それと同時にムツデが砕け散る。成功だ。残骸を自転車のカゴに載せ、帰還する。まだ2度目ではあるが、手慣れているように見えたらしい。慣れた頃が危険だから次からはやりたくない。そう思いながらも科学部まで持っていく。するとこのムツデの特徴が掴めてきた。首筋にまたしても紅い石があったのだ。全く同じ形であったため、埋葬したものを掘り返して顕微鏡で調べると、観察できる限りは同じものだという。しかし何故。何かの連絡装置だろうか。だとするとマズイのだが、それよりも重要な事は、明らかに人為の痕が見られる事だ。つまりこれは人災だと改めて証明されたようなものだ。しかし一体何故。この石は取り敢えず生徒会室に置き、観察を続ける事とした。生体エネルギーを動力源とするなら、ムツデの体から切り離した時点でもう大丈夫だ。しかし鉱石ラジオのように電波に反応されると困るので、気休め程度にアルミホイルで包んで保管した。
 食糧調達も困難になりつつあり、そろそろ移転も考えねばならないだろう、と議長、いや臨時会長が定例会で言った。その通りだ。食糧調達も数度繰り返し、次からは川か山を越えねばならない。どちらを越えるか。鏡川を越えると必然、怪物(ゾンビ)の発生地を目の当たりにする。現状では危険すぎる判断だ。ならば山を越えて西に進むしかなさそうだ。しかし西に移転先は無い。移転するにしても、全員とは言わないが大多数が戦えるようにならねばならない。という訳で数週間前から校庭で戦闘訓練をしてきたのだが、あの恐怖をトラウマに抱える者も多く、未だ校舎外に出られない者も居る。つまりこの校舎の放棄は殆ど不可能。ならば動ける人間が2手に分かれ、校舎の食糧事情を担う者と、移転して新天地を目指す者とに分かれるしかない。でないといずれ破綻してしまう。しかし分かれてしまえば、二度と会えないかもしれない。動ける者が約180人。そのうち30人を残して移転する事とした。移転は今度の食糧調達の際。そのために銀輪対応の武器を備え、いざという時は迅速に切り抜けられるようにする。ゾンビ亡き今、物量で挑んでくる相手は殆ど居ない筈だ。ならば包囲が完成しない以上、撤退も機動力によって出来る筈。私が率いる銀輪隊150はその翌日、出立した。臨時会長は校舎に残り、残る100人強をまとめるという。街中を歩けば白骨体があちこちに転がっている。大通りには車が渋滞し、そこから逃れた人々がどこへ行ったのかという謎だけが残る。市内には30万人が住んでいた筈だ。しかし我々が学校から出た頃には、殆どが闇夜に沈んでいた。一体何が。山にでも逃れたのか。そんな気配は無い。取り敢えず1日目はトンネルの向こうにある競技場に野営を張って、入口を封じる事とした。夜番は15日交代で10人ずつにした。
 2日目。食糧調達を兼ねて近くのスーパーから食糧を盗っていく。ここからは何も盗られていないらしく、あの日のまま時間が止まっている。そして更に西に進むと、十数人ほどの集まりが見えた。急いで本隊を脇道に隠し、偵察役3人を徒歩で向かわせた。すると向こうも気付いたらしいが、そのまま無視されたという。急ぎ偵察役を自転車に乗せ、追いかけさせる。そしてこちらに情報を提供してくれるよう要請して貰った。すると拒絶されたので、総勢150人の武装銀輪隊で威圧する事とした。いざ出会ってみると、相手は13人、こちらの十分の一の人数だ。同年代らしく見える。本拠地は?と訊くと学校を指した。どうやら我々と似たような経緯らしいが、向こうには教員も居た。どうやら地域住民と共に籠城戦に成功した後、元の生活を取り戻しつつあったが、そこにムツデが大量にやってきて大量殺戮沙汰となり、結局また籠城生活になっているらしい。では何故君達が外に?と訊くと、ムツデが観測できないために偵察として放たれた部隊らしい。ゾンビによる被害は殆ど無く、死者の殆どはムツデによるものだという。するとそこにムツデの大群が現れた。約30体は居るだろう。1体なら倒せるが、こんなに居ては倒せない。取り敢えず彼ら偵察部隊の本拠地まで案内して貰った。自転車ならギリギリ逃げ切れる。本拠地はすっかり城塞化されていた。校門には車を置き、簡易長槍などで応戦できる程度ではあった。しかし火薬を用いるという考えは無かったようで、防戦一方であったらしい。しかし彼らは彼らで火炎放射器を開発し、顔の部分を焼く事で無力化に成功していた。彼らはこれをヤポーニャの火と呼んでいた。ギリシアの火に対応して「日本」をギリシャ語で呼んでみたらしい。謎のセンスだ。一方でこちらはムツデ―と仮称している件の怪物、彼らはクロイヌと呼んでいる―の倒し方を説明し、実際にニトログリセリンキットを見せると、何人かがやってきて原理の説明を求めた。これを再現するらしい。しかしこれはあくまで簡易地雷のようなもの。設置しなければ使えないという点では使用は難しい。実用面上の苦難を説明すると、手榴弾の設計を行う予定らしい。しかしどういうものを。そう思っていると、考えているのはダイナマイトであった。粘土が無い、と我が校での籠城時は言っていたが、ここには粘土があるらしい。そうして出来上がったダイナマイトの導火線に火を点け、校外に迫るムツデの足許に向かって放り投げた。すると爆音とともに砕け散る。導火線が若干長過ぎたようにも感じたが、短過ぎるよりはこのくらいが丁度だろう。彼らが無力化した何体かのムツデの四肢を何とか切り落とし、共同で解剖する事とした。やはり全て、首には紅い宝石(ルビー)のようなものが埋まっている。他についてはよく分からないが、これを取り除いた瞬間動かなくなる事からも、エネルギー源ではないかという仮説が立った。逆にこれを付ければ、既に脳をグチャグチャにしていても、最初にピクつくのだ。しかし心臓でも脳でもない「エネルギー源」があるなら、本来食事は必要無い筈だ。これを放った者はどういう意図を持っていたのか。そしてこれが何故引き起こされた人災(・・)なのか。この2つの謎を共有した。
 この日はこの学校に泊まらせて貰った。かなりムツデに殺られたらしく、新兵器ダイナマイトによって安寧を手に入れたとして大騒ぎであった。拠点を探していたのだからここでも良かったのだが、食糧をここに頼るというのも面目が立たないため、必要な時に供給して貰う、いわば寄港地の扱いにさせて貰った。こうして明日からの行き先を検討していると、北の方から火が上がっているように見える。それは何かと訊くと、彼らの火炎放射器・ヤポーニャの火を応用して北方戦線を構築し、久万川北岸を守っているらしい。となると陥落したのは中心市街地だけか。そう思っていたが、少なくとも隣県も同じような状況らしい。インターネットが不通となったのはあの光柱の出現とほぼ同時だったらしく、北の山地を越えてきた人々がそう言っていたらしい。つまり、同じような惨劇が他の県でも繰り広げられているらしい。この学校にはマッドサイエンティストが居るらしい。その名もD。ヤツデの四肢をもぐと言い出したり、頭だけ焼けば良いという方法を発案した英雄らしい。今は無力化したヤツデに様々な実験(ごうもん)を施し、研究結果を発表しているという。 3日目。無事で尚且(なおかつ)見える距離なら、狼煙を上げる予定だから、と宣言した日だ。向こうからはちゃんと煙が上がっている。こちらからも煙を上げねば。そうして近くの山から木々を取ってきて、煙を上げる。もしかすると裏山に阻まれて見えないかもしれないが。煙を上げると、早速北方戦線に向かう事とした。そして道中、朝倉の駅前まで来た頃だった。突如市街の方が光り始め、同時に同心円状に光環が広がるのが見えた。そこには無数のムツデが乗っていたが、色が違う。黒ではなく黄だ。咄嗟に危機を察知して、その反対側の峠を急いで越える。嫌な予感しかしなかったからだ。そして咥内坂を越えて、伊野までやって来た。といっても伊野市街ではなく、その東端であるが。咥内坂に設置した簡易地雷。ついでにダイナマイト。これらは黄色のムツデが踏みしめた際に爆発。これらが投げ込む形じゃなくて良かったとも思った。しかしながらあまりに多かったために撃破し切れず、黄色のムツデは伊野市街へと侵攻していった。これまではここまで攻め込んで来てなかったのだろうか。そう思って端に目を付けられてなさそうな家々があったので、そこで話を聞いてみると、話に聞くだけでこれまで見た事がないという。しかしこのままでは他の所はどうなっているのか。高速道路まで上って、市街を見渡してみると、さっきまで居た学校は無事のようだが危うく、北方戦線は火の海である。これは目指していた北方戦線の陥落を意味するかもしれない。すぐに行けば間に合うかもしれないが、間に合った所でする事はいない。犬死になりに行くだけだ。ならば元々の我々の学校は無事か。山から煙が上がっており恐らくは無事だが、校舎は放棄したのだろうか。それとも校舎が陥落してたまたま外に居た人だけが助かった、何てこともあり得る。数人しか生き残らなかったのだろうか。一方この同盟国にあたる学校は、さっきの兵器で応戦できないとはいえ、元々の城塞の防御度が高く、そう簡単には攻め入られないだろう。とにかく、急いで本拠地まで戻らねば。銀輪部隊を急がせ、昼には咥内の高速道路橋上に居た所から一度仁淀川まで退き、そこから南の道を通って学校に急いだ。夕方4時半に飛ばせる人間だけで集めた高速隊が辿り着き、ダイナマイトを使って掃った。我々が何とか撤退に追い込んだものの、平和ボケで防火扉を閉めていなかった3階などにも攻め込んできたらしく、元々戦闘力の無い者の集まりだった校舎を守るための死闘が繰り広げられたという。その結果、臨時会長含む20人が戦死したものの、何とか防火扉の封鎖はできたという。簡易地雷は校内に設置できず、その結果だったという。しかし彼らの抵抗のお蔭で、残る90人が救われたのだ。屋上への立ち入りを特別に許可し、定点観測を任せている科学部の資料も守られた。何よりもこれが一番大きかった。光環はどうやら11日周期で変動しているらしく、半径は不規則に変動するが、周期の最終日には必ず消滅するのだという。そして最初のあの日から11周期と1日後が、昨日だったのだという。偶然か必然か、11という数字が頻繁に出るのだという。何かのメッセージだろうか。そう思いながらも、ホームグラウンドで眠りに就く。たった3日で戻ってきた。食糧問題も何も解決しなかったが、他に生き残りが居たという事実を知り、同時に生き残っているという事実を伝える事ができた。生存者数は我が校が一番多いらしい。北方戦線の方は猛烈な火が上がっていたが、やがて消え去り、闇夜に消え去った。しかし電気と水道の謎については、彼らも不思議がっていた。そう思い残しながら眠った夜であった。
 あの日から123日目らしい。正確な日付は分からないが、もう秋か冬になりつつあるのは分かる。上着が無いと少し寒い。家は中心市街地にある。未だ魑魅魍魎うずまくとも知れない、元凶たる光柱のある中心市街地だ。詳細な光環の観測の結果、光環の消滅時を半径が無限とすると、基本的に光環の中でムツデは突如現れ、そして襲ってくるのだという。しかし目も見えないのに、と思っていたら、光環の中では目が見えるらしい。そんな事まで分かれば、光環に入らないようにすれば良い。不規則とはいえ周期の最初は半径が小さく、後期になると半径が大きい傾向にあるらしい。さらに第12周期に入って、急速に光環の活動が低下したらしい。つまり今日や明日あたりが探索には最適である。急ぎ探索隊を結成し、我が家周辺を目標に向かう。途上に何体かムツデを見かけたが、活動が穏やかなのか、気付いていないからなのか、襲ってこない。大きな音を立てなければ大丈夫そうだ。江ノ口川を渡り、鉄道高架が東進から北上に向きを変える辺り。そこにある家に再び入ってみると、空き巣にでも入られたのか、色々なものが無くなっている。しかし鍵は掛かっており、窓や扉が壊された形跡は無い。まあ火事場どころかほぼ無尽蔵に時間があったのだから、形跡を残さない侵入なぞ、いと易きに違いなしと思った。幸い私の物は何一つ盗られていなかったので、上着と家宝の日本刀だけ取っていく事にした。探索と称して結局回れるだけの家を回り、探索隊のほぼ全員が帰宅を果たした。しかしいずれの家にも、誰かが入ったような形跡は無かった。誰もが帰らないまま、外で腐り落ちたか、或いはムツデの餌食となったのだ。学校に帰ると、上着を着ている事に皆驚いていた。帰るなら今のうち、そう言うと皆帰り、現実を知って帰ってきた。この日、我々「既に帰った者共」は、光柱の周囲にまで肉薄した。そして光柱の正体を知って驚いた。まず光柱の中心には、何も存在しなかった。そして更に、光柱の光は下から出ているように見えるが、見上げてみれば空の小さな粒から放たれる光であったのだ。誰かが国際宇宙ステーションのようだと言ったが、まさにその通りである。だが確かに、小さな星粒にしか見えないその物体は、我が町の中心市街地を照らしていたのだ。恐らく別の場所でも同じような事をしているのだろう。自衛隊などが動かず、警察すら殆ど機能していない現状。なのに電気や水道は生きている。この理由がまだ謎だが、少なくともこの光柱については検討が付く。人智を超えた存在だ。地球外生命体か、或いは怪物か、何にせよ人外の仕業であろう。その上で、全く機能していない公共機関に対して、それでも何とか生き延びられた我々。その違いは何か。最初のあの日、積極的だったか、消極的だったかであろう。あの日積極的に対応したであろう警察や自衛隊、その他大勢は十数日に亘(わた)り徹底的に抹殺された。それに対し、その間籠城という極めて消極的な手段に徹した我々は、その無力さ故に歯牙にも掛けられず、結果として助かったのだろう。しかしそれ以後、ムツデを爆破したり、焼却したりと、中々に派手にやっているが何故我々は滅亡していないのか。そこが気になる点である。光環がここまで小さければ、全体像もよく見える。直径30mほどの円。五角形の対角線のような星型を包むように円がある感じだ。星は左回りに回転しており、その速度は一定だ。10秒とちょっとで一周する。この光環の中心は正確に交差点の中心と一致しており、宇宙からのものであればその精度は凄まじいものだ。
「ふふ…遂に気付きましたか…」
 一体誰だ。背後からか。いや、前方の光環からだ。見ればそこには黒い紳士服を着た西洋風の男が立っている。
「私は第64管区総督、名前は現在持っておりません…ふふふ」
 全ての元凶はこいつなのか。それにしても他に少なくとも63都市が同じ目に遭っているのか。すると男はあの紅い石をバラ撒く。するとムツデが形成される。
「この石は何でも生み出せるんですよ…!!!!!!」
 という事は、今持っている紅い石も同じように使えるのかもしれない。光環の中でしか具現化できないのなら、その中に入れば良いのか?皆は止めるが、ダメ元でもこうする外(ほか)ない。何でも生み出せる、という事は本人の思考によるのか。
<現れよ、最強の武器>
 そう願うと、光環に落とした石が剣になった。正確には剣が石から生えてきたのだろうか。どちらにせよ、古代の剣のようなものが生まれた。私を含め、その場に居る男までも絶句する。ムツデが斬れる気がする。そう思って斬ってみると、断面が見える。そして再生しない。慌てた男は大きめのムツデを出してくる。それも難なく斬り伏せ、男に迫る。何の目的でこんな事を引き起こしたのか。どうして。どうして。それを訊くが、男は答えようとしない。指を切り落としても、足を切り落としても言わない。仕方なく身包み剥がし、斬ろうとすると、一言。
「私を斬っても、斬らなくても結果は同じ、全ては女王陛下の為すが儘に!」
 こう言って砂になって崩れ落ちた。直後、光環の色が金色から薄い青色に変わり、周囲のムツデが崩れ落ちて砂になった。一体何が起こったのか。そう困惑しつつ光環から出ると、剣は崩れ落ち、しかし砂にはならずに華奢な女の子になった。そして状況の説明を始めた。どうやら彼女が剣であり、元々は紅い石なのだとか。しかし何故自律型のコンピューターのような振る舞いが出来るのかと訊くと、この紅い石の1つ1つがスパコン以上の計算能力を持っており、それに極めてヒトに近いデータが存在するのだとか。ムツデから切り離した事で再起動して持ち主を認識し直し、光環の中で有効化されたのだとか。そしてこの何でも具現化できる能力というのは、実際に別空間から物質を取り出して構築されているのだとか。そしてこの剣が一体何かを訊くと、これは軒轅剣という剣らしい。本当に最強の剣なのか、と疑っていると、東洋のエクスカリバーのようなものだと告げられた。正確にはそれよりも上位の存在らしいが。この軒轅剣は神剣の類らしく、基本的に神的甲冑などでない限りは何でも斬れるのだとか。とはいっても、全く現実味が無い。ようやく理解し得た事が、「この剣の斬撃は斬るものが違った」のだ。モノを斬っているのではなく、空間を切り裂いていた。そして斬った断面を別空間へ転送する事で、斬ったものごと無かったものにしているのだ。こんな危険な剣は他の者にはとても渡せない。という事で私が個人で管理する事となった。この剣は試してみるとかなり便利で、石に戻ったり、華奢な女の子になったり、色々と変化する事ができるのだ。取り敢えずこの町での被害はこれが最後か。全てのムツデは砂と化し、「紅い石」は取り放題になった。しかしこの光柱は消えない。このまま放置しても復活するかもしれないので、「紅い石」は我が校の生徒会室という1ヶ所に集めた。総数1508個。そんなによく撒いたものだ。集めてみるとゴミ箱1つくらいにはなる。失われた人を復活させる事は流石にできないらしいが、かなりの万能性を持っているらしく、神剣クラスの攻撃以外は防げる盾や、石を弾丸にした銃などであった。
<第64管区総督が***により死亡・補填が必要です>
「ふむ…補填せよ」
 「あの日」の実行犯を討ち取って2日。昨日に変わらず、平穏無事な日が過ぎようとしていた。光環の活動が異常な程に高まっていると聞き、すぐにバルコニーから見る。すると、またしてもあの男と同じような人物が現れた。一体どこから。それよりも問題だったのは、現地で調査をしていた者共であった。ムツデなどが出なくなったのを良い事に、研究隊が向かっていた筈だった。すぐに結果は分かった。研究隊は紫煙、つまり例のゾンビ化ガスによって奇襲を受け、生き残った者は僅かだった。更に追撃にムツデを放った奴等から生き延びたのは数人。生存率は1割程度であった。こちらを認識しているのか、ムツデの大群がやってくる。組織だった行動とは思えないが、目標設定などのようなある程度の制御は為されているように見える。生存者が一番多いのは恐らくこの学校だ。ここの何を狙っているかは分からないが、検討は付く。恐らく大量に集めた「紅い石」だろう。こちらにも為す術が無い訳ではない。紅い石を弾丸にして撃てるライフルが3丁、紅い石を素材に軒轅剣の模造品(コピー)として作った刀が数振りある。それで時間を稼ぎつつ、裏山まで誘導しよう。A君率いる迎撃隊が戦う間に避難し、迎撃隊は別の山の方へ逃げる。そうすれば、万一別働隊が討ち取られても、避難者を直接狙わない限りは攻撃は及ばない。私は盾と剣を持って避難者を先導する。眼下にはA君ら数人の健闘が映る。しかし多勢に無勢か、近接戦闘隊は退却し、砲撃隊の居る2階建ての倉庫へと合流する。しかしその倉庫も囲まれ、10人程度が孤立した。しかしまだ紅い石はあった。次々と敵を撃ち落とし、何とか2階を死守した。すると敵将と思しき男が現れ、石を短銃(ピストル)のようなものに込めた。するとそこからレーザー光線が出て、倉庫諸共切られてしまった。ムツデに食われるのかと思いきや、四肢を捥(も)いだり内臓を潰したりと、即死させないあたりが通常とは明らかに異なる。これでは勿論全滅だ。避難者は既に全員、山の向こうに逃がした。たとえ今姿を見られていても、私一人なら大損害にはならない。しかし今、急襲する気にはならない。恐怖だ。圧倒的恐怖が勝る。勝てばそれで良いのだが、負ければ死ぬまで拷問を受ける。それも無感情的な、無条件の拷問だ。最早問うてすらいない。そして敵将。第2の男、セカンドマン、第2破壊者などと呼び方はまちまちなれど予想されていた存在だ。この者を倒さぬ事にはまた同じ生活が始まる。
「して、威力偵察のつもりだったが…全滅か…弱い、か弱い、実にか弱い!」
 翌日戻ってみると、ムツデの大群と戦った彼等の遺体は、最早残骸と言う外無かった。ほぼ原型を留めず、かろうじて指のパーツが分かる程度。他は細かく切り刻まれ、磨り潰されている。これ以上の凄惨な光景を見た事はない。抗えばこうする、という事だろうか。ならばどうすれば。再び現れたムツデに対し、早くも数百人単位の死者が出ている。全体では生存者が半減したのではないかとも聞く。現在の生存者ネットワークはかつて訪れた西の学校まで。そこよりも先は寸断されており、滅ぼされたのか、抗っているのかは誰にも分からない。煙を出せばすぐにムツデが派兵されてしまう状況では、狼煙1つ満足に上げられない。このままでは各個撃破されるだけだ。そこで避難者は全員西の学校に行く事とした。自転車を放棄せざるを得ず、更に山中の移動となれば、かつてよりも厳しすぎる状況なのは明白だ。ムツデに見つかれば吠えて仲間(ムツデ)を集める習性が備わったのか、あちこちで恐怖の声を聞く。数km先でも反応する模様であるのが恐ろしい。長期戦になれば量的にも質的にも敗北となる。間違いなく殲滅されるだろう。学校のすぐ側まで来ると、やはりムツデが数体居る。背後からの一撃必殺が要求される。先程の防衛戦で石や兵器を殆ど失った。残る武器は喋る軒轅剣と盾くらいのものだ。他の石は撹乱用に起動したまま学校に置いてきた。金属バットを入れたカゴを大量の輪ゴムが引っ張れなくなると、1つだけ何とか使えそうに残っていたライフルを固定してその引き金に引っ掛けた所が引っ張られ、一発発射するものだ。すぐに見破られる事を想定して何も用意していないが、少しは撹乱になるだろう。西の学校周辺のムツデ8体を背後から一撃で仕留め、石を採取してから入城すると、かなりこの学校も人数が減っているが、見慣れない顔もある。全滅を避けるためにクラス単位で逃避行をさせた学校があるらしく、その一部がここには居た。中心市街にある女子校らしいが、そこでの最初3日の風景は地獄絵図だったとか。そこから脱出して城山へ逃れて、本丸御殿で暮らしていたとか。しかし数日前の第2波によって城山も攻撃対象となったのか、本丸から身動きが取れなくなり、密かに脱出した人々の一部が生き残って西まで逃れてきて、それを見つけて保護したのだとか。ではまだ城山には何十人も残っているのか。城山へ救出に向かえば、その情報が得られる。それに中心市街地の状況の変遷も知る事ができる。丁度だ。この救出には、救出対象数が不明な事と、道中の未確認度が高い事から、避難先のこの学校との連合部隊の総勢80人で向かう事とした。隊長はこの避難先の学校の司令官であるE君が、副隊長を私が務める事となった。電車通りも城山との中間地点あたりである上町で折れ曲がっているため、そこまでは電車通りを使っても姿は見られない。問題はムツデの吠える声である。これについては先程採取した紅い石を用いて軒轅剣を量産し、それで背後から一撃で仕留める事となった。やはり光環の中でないと原本(オリジナル)となる新兵器は作れないらしいが、外でも複製はできる。エネルギー源はどうやらこの紅い石自体らしい。剣を大量に複製し、城山まで向かう。上町で北へ曲がり、小道を確認しながら進もうとするも、ムツデがかなり多いので、急遽変更してムツデの少ない江ノ口川南岸の道のりを下って行く事とした。そして城西公園に到達。この時点で既に夕方5時であったが、80人もの人数がここで姿を隠して留まれる訳ではない。ならば城山に到達するまで。本丸が無事なのなら、そこで留まれるだろう。
 城山の中にはムツデは少ない。向きを変えた隙に一撃で仕留めるのにも慣れてきた。ここからは2手に分かれて掃討戦を行いながら本丸へと向かう。私の部隊は追手口の方から本丸へと向かう。詰門前。そこには見知った顔があった。確か本丸に居る筈だが。彼女は私にとって昔の同級生であるFだ。本丸へ行くのかしら?と訊いてくる。何があったのか。助けに来たと言うと、その必要はない、私が既に全員殺したから、と言う。有り得ない。じゃあ証拠を見せてあげよう、と言って彼女が放り投げてきたのは生首であった。恐らくは、彼女の同級生だった人物のものだ。苦悶に満ちたその顔は、まさにムンクの「叫び」の如く、我々に惨状をありありと伝えてきた。しかし断面が滑らか過ぎる。この異常事態にあっても気付く程に。貴方達、このままだと私に殺されちゃうわよ?良いのかしら?と言って彼女はこちらへと向かってくる。総員撤退用意、と言った瞬間に、背後に居た20人程の首が転がった。残るは私だけか。あら、斬った筈なのに生きてる…?何故?何故?何故?彼女は続けて数回私を斬りにくる。咄嗟に後退して回避するも、このままでは端に追い詰められる。こんな中、私は迷っていた。彼女は敵なのか。時は遡って十年前。私が力の強い同級生に殴り飛ばされ、蹴って踏み潰された時の事。後日談ではあるが、そもそもこの同級生は彼女の事が好きだったらしく彼女と親しくしていた私に嫉妬してこのような暴行に及んだのだが、彼女はそれを知っていたのか、そんな奴相手にせずにこっちへ来て、と言って毎度毎度(いつも)助けてくれていたのだ。私もその時彼女の事が好きだったのだが、私はそれを隠して、別の同級生を好きだという事にして、その恋愛相談まで持ちかけていたのだ。そんな仲だった筈なのに。その光景が今でも目に浮かぶ。しかし彼女は今、私を本気で殺しに来ている。このままでは間違いなく、次の一撃で私は絶命してしまう。本当に彼女が本丸に居たという全員を殺したのか。彼女の今の剣捌きの様子だと、一瞬の仕事だろう。しかし動機が無い。彼女は操られているのか。もしかするとそれを解除する手立てがあるかもしれない。しかしそんなものは見つからない。私を傷付ける事、まだ躊躇ってるの?と彼女は訊く。ああそうさ、と答えると、彼女はじゃあ楽に貴方を殺せるわね、と言う。どうしてこうなった。今頃本丸では大騒ぎでしょうね、と彼女が言うと同時に、緑光りする彼女の剣が私の右肩から左足に掛けて斬ろうとする。仕方ない。自衛のためだ。そう言い聞かせて既に抜いていた剣でこれを防ぐ。しかし彼女の力があまりに強く、すぐに姿勢を崩してしまう。受け身を取って階段を転がるも、彼女はすぐさま追ってくる。転がりながら姿勢を立て直すと、彼女の剣と私の剣が同時に、互いの左胸に向けて突き出された。冷たい石の階段の上、私はそれが彼女の血で染まるのを見た。どうやら持っていた「盾」の石のお蔭で私は無傷だったらしい。恐らくは即死か、そう思えば彼女が最期に一言。「ずっと…お前が嫌いだった…この十年間」出会ってから今日まで、私は彼女にずっと嫌われていたらしい。そうショックを受けていると、首許にはあの紅い石が。取り除いてみると、それは別の人であった。彼女はまだ生きているのか。そう思って本丸へ向かうと、先に到着した部隊が全滅していた。A君の首が近くに転がっていた。二の丸から本丸へと向かう回廊から本丸にかけて、古城は鮮やかな赤色に彩られていた。本丸まで辿り着けたのは私だけのようだ。そこには死体のうず高い山の上に、やはり彼女の立ち姿が見えた。
「遅いわね、私が本物よ。あんな模造品で死んでたら、何度だって殺す事になってたわ」
「でも大丈夫。貴方がとってもとってもとってもとっても嫌いな私だけど、すぐに楽にしてあげるわ」
 誰かに命令されたのか、操られているのか。そう思って訊いてみると、私が操られると?何を馬鹿な、逆よ、と言う。私もこの騒動の計画者なのよ。唖然とする。彼女に嫌われるのは最早どうでもいい。彼女が計画者?つまりは黒幕?そんな筈はない。すると彼女が斬りかかってくる。咄嗟に避(か)わすも、右手にかすり傷が付いた。それは盾かしら?笑わせないでよ。そんなもの、神剣を持つ私には通用しないわよ、と言う。さっきのは全て模造品だったのにあの強さ。このままでは深手を負うのは必至。すぐに全力で後退するが、彼女も付いてくる。彼女は私と同じくらいの速度で追ってくる。味方はもう居ない。居たとしても全く期待できない。山を駆け下り、すぐさま茂みに身を隠す。夜だから見つけ難い筈。そう油断していると、剣が飛んできた。幸い、木に当たって私が無事だったが、直径が10cmはあるような木が根元から砕けてしまった。雑木茂る斜面を体のあちこちを切りながら更に駆け下り、城西公園まで向かう。そこには自転車で来た者共が鍵を刺したまま放置してある。そこまで行ければ私の勝ちだ。いや、そうではない。このまま自転車で逃げ切れる確証はない。乗る時間のロスによっては、初速が遅い自転車ならば、追いつかれかねない。現状最善策は何か。なるべく離れる事だ。こちらは剣を不活性状態である石に戻せば、軽量化できる。盾も、効かぬなら石に戻して軽量化だ。愛宕の商店街まで逃げ、通りを右へ左へ曲がって進み、只管逃げる。すると川まで行き当たる。ここに橋はない。橋を渡るには東に数百m。もう北に逃れられぬ以上、彼女が東から襲ってくるか、西から襲ってくるか分からない。万策尽きたか、そう思って堤防に上がり、相打ちに追い込もうと試みる。彼女が道から出てきた。もう終わりか。彼女は本物なのか。何故こうなっているのか。本物だとして、この異様な剣技は何によるものか。そう考えが巡る。すると北岸から声が聞こえる。
「東に走って、援護するから!」
 彼女が襲ってくるのと同時に、寸分違わず彼女の顔の3cm先を、矢が貫く。早く、という声に急かされながら、走って何とか合流する。これは、私の親友・G。亡命者と本丸で全員かと思っていたが、まだ生きていたのか。Fの親友でもあったから殺されなかったのか。いや、彼女の今の様子だと、そのような容赦はなさそうだ。川を渡ると同時に、彼女の追跡が止まる。数kmの間ずっと走り逃げていたからか、いざ状況が落ち着くと、足が異常な程に痛い。先刻まで立っていたのに、立てない。今再び彼女が来れば、そう思うと恐ろしい。するとGさんが状況を説明してくれた。数日前まで本丸で立て籠もっていたのは事実だが、突然Fが在る筈のない剣を手に振り回す。これで本丸に居た人の半数以上の首が飛んでいった。急いで隠れたり、飛び降りたりした者は助かったが、それも段々「辻斬り」に遭っていった。そんな折、彼女ことGさんも追い詰められてこの橋を渡ったが、不思議とFが追ってくる事は無かったのだった。それから1人して、ムツデから隠れながら生きてきたらしい。こちらも救出に来たまでは良かったが、城山にはもう誰一人居らず、Fによって80人が私を残して全滅したと伝えた。お互い境遇は似た者同士、Fを止めるための手段を考えよう。そう言って残り少ない夜を眠って過ごした。翌朝、廃墟の3階で起きると、辺りにはムツデが結構居る。チュパカブラもどきなのなら夜行性かと思っていたが、昼行性らしい。紅い石はもしかすると太陽電池方式なのだろうか。彼女はムツデを倒せないらしく、昼間はずっとここに隠れているのだとか。この軒轅剣なら一瞬なのだが。素早く3体の首を落として紅い石を回収する。実はここまで記していなかったが、時々剣や盾に用いている石がエネルギー切れなのか白に変色する。こうなると効果が無い模様で、新たな紅い石を接触させて変色を移している。厳密にいえば、エネルギーを充電しているから、元々エネルギーのあった新しい石がエネルギー切れを起こすのだろう。早速「充電」すると、剣から案内少女が出てくる。すると彼女は驚いたらしく、色々と説明してあげた。一度敵の小ボスを倒して新兵器を手に入れた事。そして今この兵器合戦が起こっている事など。そして案内少女ことHに現状分析を依頼する。すると頼りに出来そうな最も近い拠点は西の学校。最早そこ以外の拠点は市街に残っていないのだろうか。更に範囲を広げると、伊野も出てくる。そういえば別(いの)の市街はどうなっているのだろうか。市街最後の砦である西の学校で座して死を待つより、市街の外の様子を見ておくべきではないか。そうして私達は西の学校に戻る前に、伊野の様子を見に行く事とした。北方戦線を目指した途上に退避したのと同様に、咥内坂を越えて伊野に入る。行政区分上は、だが。静かな住宅街が広がる中に、ムツデが見える。遮蔽物の少ない田園では、かなり見つかり易い。見つかれば吠えられ、命取りだ。そこでかなり遠回りではあるが、なるべく北の山に沿って西進した。結局この一日で進めたのはスーパーまで。それ以上はもう体が動かなかった。無人の廃墟と化して暫く経ったスーパーには、誰かが居た痕跡があるものの、そこまで新しくはない。幸い中にムツデは見受けられず、2階のゲーセンのプリクラボックスに隠れ、夜をしのぐ。朝になり、疲れも取れぬままだが進軍再開。道中ムツデに、見つかって吠えられ、暫くGを庇いながらのムツデラッシュが続いた。あと数体倒すだけ。そう思いながらも体が重くなっていく。すると車が突っ込んできた。乗れと言うものだからすぐに乗ってその場から退散する。気が付けば眠っていたようで、目を覚ますと私は見慣れぬ病院に居て、彼女が隣に居た。どうやら1日程眠っていたのだとか。ここは伊野。県内で唯一ムツデとの戦いに勝利した場所。そう告げられると、他の場所について気になるものだ。訊くとすぐに答えは分かった。中村も頑張っていたが、光環の周辺はやはり圧倒的に不利らしく、陥落していた。また山中にあり無事と思われた集落や町村の多くは、幹線道路を経由して殲滅されたとか。今では伊野以外の生存者は全て山の中。そんな状況らしい。伊野では逸早く木や空き家、竹などを使って鉄橋と高速道路、そしてスーパーよりも西に城壁を築き、中心市街地を難攻不落の要塞として、この悲劇を防いだらしい。伊予の方からはまだムツデは来襲していないが、西条は焼け落ちたという話が伝わっている。そして高知市街に至っては連絡が一切無く、我々が偶然居なければ咥内坂を越えて高知市街へと入っていたとか。高知市街の状況を伝えると、殆ど生存が絶望的と分かったらしく、調査は取りやめになった。ここには山の上に校舎を構える一風変わった学校を始めとした、様々な地域から落ち延びた者も居た。それぞれが城壁の維持や修復、見張りや戦闘に「向こう側」の調査などの各自の役割を果たしていた。まさに軍事都市。戦闘に特化し人口の倍増した伊野は、幾度ものムツデの来襲を物ともせぬ様相であった。
 伊野到着から2日。現代兵器でムツデを打ち払い、今日も平和は守られる。軍事輸送に東西2本の鉄路が用いられる。北には路面電車、南には旧国鉄。路面軌道は主に人を運び、JR線は物を運ぶ。宇治川を防衛線にした、東西僅か1.5kmの内に市街を収める、東西南の三方を川、北を山に囲まれた天然の要害。自動車を並べて基盤とし、それを取り繕うように木材を並べて作った堅牢な城壁は、防御どころか攻勢すら演出している。ここは県下唯一の真っ当な世界だ。下手すればこの世界で唯一、かもしれない。各国の空軍は奴等の母艦たる静止軌道上の飛行船に全て撃破され、陸上ではゾンビ騒動の後の怪物(ムツデ)、海上では「大鮫魚」を名乗る謎の艦船が戦艦や漁船は勿論、潜水艦までも撃沈する。こんな世界では、世界的にみてもこのように日常を少し取り戻せている伊野(ここ)は、非常に珍しいだろう。ここにいれば、欲しい情報が手に入る。ここに来るまでは外況の1つすら分からなかった。しかしここでは、隣県や海上の様子まで、ある程度は分かる。高知市街へ調査隊が向かえば、戦況も分かるだろう。しかしここにGと2人居ても、状況は改善しない。Gを残して私は、再び、高知市街へ向かう事とした。明日、調査隊が出発するそうだ。そこに案内役として、同行させて貰う事とした。調査隊として出発し、大きな見送りを受けながら川を渡る。川の向こうは文字通り異世界。怪物(ムツデ)の跋扈する、人外の地だ。ムツデの何体かが気付き、吠えながらこちらへ向かってくる。私はこんなやり方ではすぐに頓挫してしまう。このままでは終わりだ、と思っていたが、追ってくる無数のムツデを倒し、どんどんと距離を付けていく。あっと言う間に咥内坂に辿り着き、ここからの道筋を説明する。取り敢えずは生存可能性の一番高い、西の学校へ。アイヨと声高らかに、運転手は咥内坂を駆け抜ける。宮の奥、朝倉神社前も無事通過し、朝倉駅前。ここでムツデの急襲に遭うも、何とか突破して大学の南まで逃れる。道が広がり、病院近くの薬局で、籠城する同胞に使えそうな薬を盗む。そのために薬剤師も同乗している。総勢5台の自動車化歩兵。本来なら銃後の駒を動員してまでして、この作戦には籠城「以後」を求めている。しかし防衛線上から迎え撃つのとは異なり、これでもやはり向こうが有利だ。ムツデに退路を絶たれ、西の学校へ向かう外に選択肢は無くなった。しかし道中にもムツデが居る。つまり八方塞がりである。ムツデが狙うのは人。そこで私は、一旦重要なものを大量に載せた5台の自動車を捨て、人だけで学校を目指す事を建言した。ムツデは物を狙わない。車を出て、武装のみして皆急ぎ走る。何人かは犠牲になるかと思ったが、今の所は無事だ。しかしムツデを倒せるかと思いきや、伊野兵に白兵戦の経験は無いらしく、1体倒すのに掛かる時間が長過ぎる。そこで私が先導して、走りながら剣で斬っていく事となった。この剣が「触れるだけで斬れる」ような類の剣で良かった。普通の剣ならばきっと無経験の伊野兵よりも、倒すのに手間取った事だろう。そうして学校までほど近くなった頃、巨大ムツデが現れた。これを見るのは何時振(いつぶ)りか。交差点の最終決戦の際に見たものではなかったか。そう思っていると、更にもう1体。軒轅剣をフル活用するしかなさそうだ。この剣の機能は、前にこの華奢な女の子―勝手に剣子ちゃんと名付けたが―から聞いている。身体強化、速度向上などである。まだ使った事のない機能だが、出し渋って死んでしまっては元も子もない。贅沢に全機能を使ってみる。全機能解放、そう呟くと剣が黄色に、いや金色と言った方良いだろうか、そのような色になった。恐らくはFの持っていた緑色の剣と同じ原理だ。いざ目の前の敵を。そう思って動こうとしただけで、既に2体とも斬れていた。異常な速さだ。使用者ですら気付かない速度。これが全機能を解放した神剣。ならばやはり、Fも同じ事が出来るのか。そう思っていると、10体ほどの巨大ムツデが現れた。今度は高さ10m。最早ロボ兵の域である。今度も難なく斬ったが、すると目の前にはFが居る。何故。そう思いながら全力で後退する。身体強化のお蔭か、かなり早い。その筈なのに、彼女は猛追してくる。身体強化後の速度が強化前の速度に依存するのなら、恐らく差は縮まりはしないが、広がりもしない。すると彼女はその緑色の剣を持って、上空高く飛び上がる。そしてこちらへ落ちてくる。いや、斬りに来ている。回避が精一杯の所だった。第2撃を防げず、左腕に傷が入る。上空からの攻撃に対しては、防御で手一杯である。かくなる上は全力で逃げ切る。それしかない。西の学校を通り過ぎ、商業施設群へと向かう。量販店の中なら、強力な「重力斬り」を封じられる。しかし彼女は更なる奥の手を有していた。全機能解放、と呟く声が聞こえたかと思えば、いきなり1階の半分が斬れてしまった。もう1振りすれば間違いなく崩れ落ちる。急いで脱出せざるを得なくなり、更に南へ向かって走る。空に浮かぶ彼女は、私に向かって一直線に急降下してくる。斜めに向かう事で撹乱するが、上空視点に対してはこれも2度くらいしか効かないだろう。小道に入り、建物の影を走る。トンネルを見つけ、急いでそこに突入する。彼女が気付くには少し掛かる筈。その少しで距離を稼ぎ、南側から脱出する。脱出できればこちらのもの。持っている武器の性能はほぼ同じ。空に浮かんだり、広域破壊が行ったりできない代わり、こちらにも奥の手がある。荒倉のトンネルを全力で走る。障害物の所為で、上りと下りのどちらに入ったか分からなくなるかと期待していたが、トンネルに入るのを見られたか、そのまま追ってくる。通常では有り得ない速度で両者移動している。静止物が勢いよく視界から去る。トンネルを脱出し、行く手を阻むべく出口に立つ。ここで私の第2の武器が役立つ時が来た。烏号、というらしい弓。私が<現れよ、最強の武器>と言った時に現れたのは剣だけではなかった。この剣もまた最強の武器である。弓の使い方を知らなかったため、これまでは使えなかったが、Gから習って少しは使えるようになった。一直線に向かってくる彼女に向け、矢を放つ。我ながら見事、彼女の眉間に突き刺さった。しかし彼女はそのまま突っ込んでくる。仕方なく剣に持ち替えながら後退し、弓を置いて剣で応戦する。矢は確かに今、刺さっている筈なのだが、彼女はそのまま戦闘を続行する。彼女の剣に弾き飛ばされ、一撃一撃で数十mは飛ばされている。これを1秒に数回やられている。完全に主導権を奪われている。何とか右に回避したが、すぐに彼女が向きを反転する。急いで逃れるも、身体強化があるとはいえ十分に使いこなせていない私では、自由に操る彼女には勝てない。弓を取って今度は胸を貫くも、彼女は進んでくる。もう終わりかと思ったその時、血を吐いて彼女が倒れた。うつぶせに勢いよく倒れたからか、左胸を貫いた矢は更に刺さって大惨事である。助ける術は無いものか。そう思っていると、彼女が一言。
「近寄るな」
 彼女から離れると、彼女は再び立ち上がり、剣を持って倒れ掛かってきた。最期の一撃のつもりなのか。「必殺の神弓」を2回も食らえば、普通なら即死だろう。かろうじて生きていたのが不思議な程だ。彼女は血塗れになって死んでしまった。言い遺した事は特に無いか、と訊く暇も無かった。私が殺めた。仕方が無かった、敵だったんだから、といえばそれまでだが、元々は私の親友だ。何なら好きだった筈の人だ。その命を私は絶ったのだ。最早涙すら出ない。何も無い。言い表すならば、空虚。ただそこに在るだけ。事物と何ら変わらない。こうして数日経ったのだろうか。彼女が段々無くなりつつあるのを見て、彼女が野生動物共に解体されそうになるのを見て、私は正気を取り戻したのだっただろうか。剣を取り、その獣共に向ける。彼女は渡さない。彼女をこれ以上殺す事は私が許さない。せめて埋葬だけでも。そう思って無意識の内に、私は彼女を土の中に寝かせた。彼女の使っていた剣は形見に持ち帰り、また西の学校へと向かう。恐らく、私は死んだ事になっているだろう。そんな事はどうでもいい。トンネルを抜け、道中のムツデを抹殺していく。彼女をここまで変えてしまったものは何か。私は絶対に許さない。学校は無事だったらしい。着くと、やはり驚かれた。彼女を殺したと言えば、皆歓喜するが、私にとっては他の道が無かったものか、という悔い以外の何物でもない。放棄した車を学校まで寄せて、いよいよ敵の本丸に向かう。あの交差点にやって来た者は一体誰か。倉庫で同胞をムツデの遊び道具にし、Fを人格編集したのは一体誰か。この人物が黒幕に違いない。いざあの交差点へ。今こそ全軍で攻め上る時。今度こそここから奴等を一掃する時。今度こそは光環を何らかの手段で破壊せねば、また同じ事の繰り返しだ。1度目は破壊手段が分からなかった事に加え、まさか2人目が来るとは思わず、調査や研究を優先した事が原因で、ここまでの犠牲を払ったのだ。次こそは勝利する。そうして県庁前、城前を越えて堀詰まで至ると突然、奴等(ムツデ)が現れた。その数は約100体以上。こちらは総勢100人で電車通りを正面突破して来た。こちらの方が数的劣勢か。そう思いながら、突撃の号令を掛ける。先鋒に立つ私がまず3体倒すと、歩道橋の下で両軍は激突。歩道橋の上に数人向かわせ、上からも攻撃させる。学習機能の少ないムツデと、歴戦の勇士達の集まった我々。やがて戦況はこちらが優位に傾き、自動車部隊を投入すると、ムツデの壁に穴が開いた。一斉に雪崩れ込むと、そこにはまた黒服の男が居た。こいつを倒せば勝利だ。そう思って身体強化などを用いて素早く斬るも、感触が無い。まさか。そう思った途端、南東の角にある画面(スクリーン)から声が聞こえる。
「光環を壊したいんだろ?なら私の持つ『原本(オリジナル)』を壊す事だな」
 どこに居るのか。すぐに分かった。後方、味方が次々と倒れていく。気付けば半分は減っているだろうか。一瞬で大量虐殺を?大勢で攻め込めば良いと考えたのか、愚かな、と言いつつ男は第3撃の素振りを見せる。すると男の手から光線が放たれ、それに当たった者が塵になっていった。盾のお蔭か自分は無事だったが、避けきれなかった殆どの兵は塵になってしまった。歩道橋の上にまだ残っている。そう思った次の瞬間、歩道橋の橋脚を全て破壊し、自身に降る瓦礫だけを塵に変えた。次々の男の手から光線が放たれる。この透明の盾(よろい)かて、無限の耐久度を誇る訳ではない。しかし建物に隠れれば、建物諸共崩される。しかしこの光線はエネルギー切れの様子が見えない。このままでは押されて負けるのか。そうしていると男は更なる武器を出した。火縄銃のように見えるその武器はこちらに向けられた。生身の人間には耐えられまい、そう言っているのが聞こえる。いつも切り抜けるのに使ってきた、常套手段を使うしかない。撹乱の後の逃走。この武器に立ち向かっても勝てないだろう。だが向こうも初めて使うような素振り。という事は接近すれば使わない可能性が高い。瞬時に相手に肉薄し、その銃で剣を受けさせる。そしてこちらも初めての手だが、使う他なさそうだ。Fの持っていた剣。これには飛行機能があるらしい。形見の剣を左手に急ぎ構え、飛び上がる。上空十数m。男が混乱する隙に建物の屋上へ上がり、事なきを得る。流石に飛ぶ事はできないらしい。しかしここからどうしようか。逃げ切った、のか。男は追ってこない。しかしここまで来た100人は全滅している。私も数度傷を受けたらしく、軽傷ではあるものの辺りには血が垂れている。取り敢えず今日はここで休もう。そうして目を閉じた。翌日。何か変わっていないかと期待したが、何も変わっていなかった。何の成果も無しに犠牲だけ出して帰るなど出来ない。あの男は強い。どうやって戦えば。そうしていると、階段を上がる音が聞こえる。まさか見つかったのか。急いで隣にあるホテルに飛び移る。しかしこの建物が見つかれば?恐らく交差点周辺ではここが一番高い建物だ。どうせ戦うのなら、こちらに高さがあった方が良い。さっきまで居た建物の屋上に男が出た瞬間、烏号で撃ちぬく。これで倒せるとは思えないが、まずは一矢報いねば、殺された皆も浮かばれない。しかしこの距離で当てられるのか。念のため、この神弓の機能を確認する。必中。つまり誰がどう下手に射ようとも、狙いさえ設定していれば敵を貫く。ならば。第2射は敢えて下手に射てはどうだろうか。自動修正機能で相手に向かって曲がる筈だ。そう考えていると男が屋上に出た。第1射、敵に向かってなるべく照準を合わせて射る。必中を悟らせないために。矢は男の腹を貫いた。第2射を早く。すると相手も銃で狙ってくる。向こうは恐らく実力で一撃必殺を当てに来る。その前に射ねば。第2射、敵の10m程南を通り過ぎた矢は、そのまま敵の胸を背後から貫いた。背後からの攻撃に対応していなかったのか、男は突如として悶え苦しむ。すると突然、男の顔は砕け散る。そんな機能ではなかった筈だ。「必殺の神弓」の効果は即死。苦しみながらの爆散ではない。一体誰が。すると背後から攻撃が来る。避けきれず当たったが、盾(よろい)のお蔭で大分(だいぶ)軽減できている筈だ。それでも痛いとなるとよほどの攻撃だ。見上げると、光柱の中心に黒い球が浮かんでいる。そこからの攻撃か。
「君は今から人類で初めて光輪の消去に成功するらしい」
初めて?他にもこういう者は居るだろうに。
「皆、この男を送るとすぐに死んだものでな」
 この男は他の都市にも行っていたのか。しかし何故この男は味方である筈のコイツに殺されたのか。
「この男は朕(われ)に背いた。期限内に滅ぼしきれなかったのだ」
そんな理由で粛清されるのか。
「そこで君に『期待』しよう、せいぜい朕(われ)を楽しませるが良い」
 すると黒球は光柱から消えた。男が持っていた『光環石』と言ったか、黒い星型の石を叩き斬ると、光柱は消滅した。上空の母船からの攻撃も無さそうだ。先程の攻撃の正体は何か。男に刺さったものを取り除いてみる。白い円盤状の石だ。その中心を触ると、どうやらこれは記憶媒体らしく、空間に様々な情報が映し出される。それによると、母船は全部で10個あり、その全てがいずれ、日本各地の上空に向かっていくらしい。現在は1艦も来ていないが、各国軍のゼロという数字に紛れ、自衛隊の残存戦力でさえ2桁の数字で表されている事からも、少なくとも飛行部隊は全滅したのだろう。となると日本上空に直接来ていなくても攻撃が出来るという事だ。なのに今、この町は破壊されていない。この真の破壊者の望みは享楽か?圧倒的科学力で「原始人」を捻じ伏せる事に何の意義があるのか。まるで象が歩いて蟻を踏み潰すようなものだ。目的までの道筋に蟻(ヒト)が居るから、という理由に他ならないだろう。しかし蟻(ヒト)には蟻(ヒト)なりの勝ち方がある。どこかのジャンケンでは蟻は象に勝つ。理由は蟻は象を噛むから。窮鼠(ネズミは)ネコを咬む、という諺にもあるように、必ずしも大きい者が小さい者を打ち負かすとは限らない。旧約聖書での小人(ダビデ)と巨人(ゴリアテ)の戦いだってそうだ。何か出来る事がある筈だ。まずここまでの戦いで、私は軒轅剣と烏号、そして3本の日本刀を手に入れた。Fやあの男によると三明の剣と総称されるらしい。しかしこれが何かを知らない。光環を除去したため、インターネットが使えるかもしれない。すぐに図書館の書籍検索機からネットへとアクセスする。読みは大当たり。この地域だけ使える模様。とは言っても世界中のサーバーが同じような環境にある所為(せい)か、何にもアクセスできない。偶然にも県内を結ぶサーバー網があったのか、書籍検索機だけが使える。仕方が無いのでそれらしきものを幾つか検索してみる。埒が明かないので、剣の図鑑や弓の図鑑を調べてみる。「三明の剣」。かつて鈴鹿御前が使っていたとされる刀。更に詳しく調べると、剣の「機能」がこれと合致している事が分かる。しかし何故伝承と同じものを作り出す?それ以外にも兵器はあろうに。剣子ちゃんモードに設定して剣に質問してみる。すると意外な回答が返ってきた。そもそもこの「紅い石」は、無から何かを生み出す事はできない、つまりは模倣装置だという。伝説上のものであっても模倣する事はできるが、裏を返せば既に何らかの形で存在するものしか出来ないのだという。そして軒轅剣・烏号についても出所が掴めた。4000年前の黄帝伝説。そこに出てくる、東洋における人界最強の兵器。それがこの2つだという。これが何故私の手元に転がり込んだのかは分からないが、剣子ちゃんによると。何かの縁があるのだろうとの事。剣子ちゃんモードは敵が有する機械人格(エーアイ)を模倣したものらしい。色々な謎が解けた所で、西の学校へ向かう。部隊は全滅したが、見ての通り我々の勝利だ。正確には「生かされている」状況だが。西の学校へ向かう道のりには、何も居ない。敵も味方も、誰も居ない。野生動物ですら居ない。在るのはかつての人類の構造物と街路樹、そして死骸ばかりだ。学校に着けば、戦死を悲しむ声が響く。伊野方からも数人調査として入ったが、それも漏れなく塵にされている。しかし。すっかり全滅したものだと思っていたが、歩道橋の上に居た数人だけは塵にされておらず、飛び降りて軽傷で済んだ者が居るという。生きていた者が1人居ただけでも喜ばしい事だ。それが3人も居れば、とても喜ばしい事ではあるが、全く喜べない。何も分からぬまま、ただ生かされている。県下から奴等を追い払い、解放したのは良いが、あまりに犠牲が大き過ぎた。元々我が校には273人の生存者が居た。数度の決戦や襲撃により、今や100人を切っている。それでも我々が市街で最大勢力なのは、他にも同様に犠牲が出たからだ。幾度(いくたび)もの戦の中、何とか生き残ったのは私だけ。このような戦いが何度あったか。これ以上の戦いは必要が無いのではないか。我々が多大な犠牲の上に勝ち取ったのは平和ではないのか。たまたま居合わせた者にこう訊くと、明確に否定された。これからも戦い続けよ、真の勝利は奴等の撃破にあり、ここで立ち止まる事は彼等をの死を単なる犬死に貶(おとし)める事だ、さあ進め、更なる犠牲をも厭わず、更なる破壊をも厭わず、解放せよ。そう言うのである。また別の者に訊いても、似たような答えだ。まだ戦わねばならない。勝ち続けねばならない。皆がそう言うのなら、更に進む他に道無いのだろう。しかしもう戦いたくない。毎度毎度の勝算の薄い、犠牲ばかり出る戦い。死にかけながらも、私だけが生き残ってしまったあの戦い、この戦い。今でも愛する人を自ら殺めた戦い。このような事を、仮に私が死んでも、この者達は繰り返すのだろう。どこかで誰かが止めないものか。そう思うが、皆の意見は変わらない。もう1つ気になった事がある。まだ誰にも言っていない事だが、男に刺さった記憶媒体の事だ。これには敵の母艦の到着する大まかな位置が記されていた。第一に福岡、第二に広島、第三に神戸、第四に大阪、第五に名古屋、第六に東京、第七に新潟、第八に仙台、第九に秋田、第十に札幌だ。母艦の着く順もこの通りらしい。つまりいずれにせよ、この平和は母艦到着までの僅かなもの。これが終わってしまえば、何があるか分からない。期間限定の平和を選ぶか、多大な犠牲を払いつつ解放を目指すか。結局悩み続けて、その日は寝床に就いた。
 翌日、私は進む他に道無しとて、止める者も無く、早速軍議を開いた。現在の生存者は西の学校に200人弱、伊野に数千人。しかし当然ながら、全員が戦闘員ではないし、全員を戦闘員化する気は無い。駒のように人を使い捨てる、そんな者にはなりたくない。最小限の犠牲で、最小限の損害で、隣の県へ進む。それだけを考えて、地形図を開く。幸いにして、図書館は無傷であったため、大量に地図をコピーしてきたのだった。隣県への進出案が練られた。最も現実的だったのは、高速道路沿いに北上し、まず徳島西部を押さえる。そこから東進していき、徳島市内にあるだろう「管区」を撃破し、香川管区、愛媛管区へと至る。これが最良の案という事は異論無く決まった。光環の破壊方法も分かっている。「管区総督」の持つ石を破壊すれば良い。母艦の存在などについては何も言っていないが、取り敢えず京阪神解放が当面の大きな目標らしい。また今回の勝利により、ようやく電気や水道についての謎も解けた。やはり敵方が握っていたらしく、何の目的か、敢えて残していたようだ。奴等の居なくなった今、管理するのは我々だ。しかしすぐに燃料が無くなる。止むを得ず計画停電区域を設定し、伊野と西の学校、その他必要な施設にだけ電力を供給する。開閉器を閉じて外部との電力路を閉じ、完全自給自足の電力体制とした。水道については電力ある限りは供給可能なようにし、遠くのダムについても管理員を送って人力で対応した。そして今、徳島解放作戦が始まる。総勢300人の巨大部隊だ。総人口の1割ほどの大部隊だ。第1、第2の2分隊制とし、司令官は私。分隊長には第1にA君の弟のI君を、第2には伊野兵が圧倒的な人数のため、伊野からの代表者を任命し、高速道路へと進軍する。
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